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トップMapAngel Down 少女たちの過去編>『バレンタインデー』


注意事項

1、これは東方projectの二次創作小説である

2、オリキャラが登場するのである

3、原作設定一部崩壊、キャラ設定一部崩壊しているのである

4、これらの要素のひとつでも嫌なのであるなら、すぐに戦略的撤退をするのである

5、以上のことが大丈夫ならば、スクロールで読んでいってくれ









兄さんが行方不明となってから数日が経過した。
私は今でも、心を落ち着けないままでいた。
どうして兄さんは姿を消したのだろうか。
吸血鬼の仕業と考えてみたものの、『切り裂きジャック』と呼ばれ敵味方ともに恐れられていたあの兄さんを倒せるとは思えなかった。
では一体誰が、何のために?

「――……き、……ざき」

「――鬼崎ッ!!」

「はいッ!?」

瞬時に意識が覚醒する。
金髪に顎髭を生やした軍服の男が私の名を叫んでいた。
この男は確か、ジョン・カーター。階級は中尉。私の上官だ。

「おい、鬼崎少尉。気を散らすな、今は作戦行動中だぞ」

「あ、はい。ごめんなさい……カーター中尉」

カーター少尉はひとつ溜息をした後、ふと私のほうを見て――。

「鬼崎少尉。最近、ぼーっとしすぎてるようではないか? 訓練のときならまだしも、今は作戦行動中だ。
 お前一人のために隊を犠牲にする訳にはいかないんだ。分かるよな?」

「はい、以後気をつけます」

上官からお叱りを受けてしまった。
カーター少尉には、養わなければならない家族がいた。「いた」というのはご存知の通り過去形である。
もうすでに亡くなられていると聞いている。

昔彼が独り言をつぶやいていたのを立ち聞きしてしまった時があるが、
どうやら亡くなられた奥さんと私が似ていたらしい。
彼が私如きのために真剣に怒ってくれているのは、妻と私を被せているのかもしれない。
だけどここは戦場だ。
私が言えたことではないが、兵を消耗品として考えなければこの先正気を保っていられるか分からない。
彼のような人を失いたくない。
こう考えられるようになった私を形にしてくれたのは、兄さんだった。

「……行方知れずとなった兄貴がそんなに気になるか?」

「えっ? 今何て……」

「いや、何でもない……と、やっとご到着のようだぜ?」

中尉が空を見上げる。
その視線の先には、数機の大型ヘリが舞っていた。
その一機のヘリの拡声器から低い男性の声が響く。

「――こちら国連軍吸血鬼対策班。国際法第312条A項に基づき、この地域を吸血鬼汚染地域として認定。国際法第312条B項に基づき、掃討作戦を開始する。武装している者は速やかに除装せよ、さもなくば警告無しで発砲する。繰り返す――」

「ようやくお出ましか。腰の重いUNFVM様が! こちらウルフ1よりオールウルフ全員に伝える。ただちに作戦領域より離脱せよ! 繰り返す、ただちに作戦領域より離脱せよ! 離脱方法はブリーフィング通り、プランEでいけっ!」

「いくぞ、鬼崎少尉。離脱するぞ」

中尉が此方に背を向け、足を踏み出す。
私も無言のまま、その背中を追う。
此処は戦場。血と悲鳴に塗れた墓場。
そして、今の私が生きている唯一の場所だった。

作戦を終え、帰路に着く。

「ただいま」

その言葉を返してくれる人は、今はいない。
それがなんだか、無性に悲しかった。

「ふぅ」

一息吐き、椅子に腰掛ける。
そして私は机にあるパソコンに視線を傾けた。
兄さんが愛用していたパソコン。
稼いだお金で兄さんが買った唯一の趣味だった。
兄さんがよく分からないシューティングゲームをやってた時は、結構引いていたと思う。
兄さんが私と似ているキャラと戦っていたのも今となっては良い思い出だ。
だけどそれらも、ただの過去の出来事に他ならない。
兄さんはもう、いないのだから。

訓練を終えた帰り、私はカーター中尉と行動を共にしていた。
彼と向かった先は、彼の行きつけのバーだった。
理由は至極簡単、上司の誘いだからだ。
職場で働いていると、基本的には上司の指示に従わなければならない。
それが例えプライベートでも、何故かそうしなければならないと感じてしまう。
そう感じてしまうのは、私が一般人に近いのか、それともただ臆病で気弱なだけなのか。
そうして、上司に誘われるがままバーのカウンターの席に座っていたのだ。

「よぅマスター、いつもの1杯頼む」

「あ、私は――」

「マスター、こいつにも俺と同じやつを頼む」

「え?」

疑問符を頭に浮かべていると、暫くしてマスター(と呼ばれていた人)が紅色の液体の入った飲み物を持ってきた。

「こいつは俺の奢りだ。だから遠慮しなくていいぞ」

「あ、えっと……」

この場合はお礼を言えばいいのだろう。
それが普通、常識というやつなのだろう。
だが待ってほしい。
そもそもこの紅いどろどろの液体は、本当に飲み物なのだろうか。

「えっと、カーター中尉?」

「だから遠慮すんなって。グイっといっちゃって」

「いえ、そういうことではなく――」

「え? もしかしてお礼? いいって、別にそんなもの気にすんなよ。俺とお前の仲じゃねえか」

「あ、いえ、そうではなくてですね」

「ん? じゃあもしかして『部下にお酒奢ってくれるなんて、流石カーター中尉です! 私、惚れ直しましたっ!』ってか。
 よせって、俺は上司として当然のことを――」

「カーター中尉? あんまり調子に乗ってると、二度と軽口が言えないような顔にしてあげますよ?」

「おおっと、怒るなよ汐里ちゃん。せっかくの美人が台無しだぞ? ……ひっくッ!」

「誰のせいだと思ってるんですか。というか、もう酔ってます? 中尉」

あれ、おかしいな。
まだあの得体の知れない紅くてどろどろとしたお酒らしきものをほんの一口か二口飲んでいただけなのに。

「なぁに~? 俺は一口程度で酔うわきゃねぇ~だろ~!」

「中尉、絶対酔ってますよね? というか、中尉って意外とお酒に弱かったんですね」

その言葉がトリガーとなったのか、中尉が突然泣き出した。

「くっそぉぉがぁ……! また部下にそれ言われたぁ……!」

中尉って見かけによらず、泣き上戸だったんだ。
これは、他の皆が苦労してるのも分かるなぁ。
居心地の悪くなった私は、マスターに助け舟を出した。

「マスター、中尉ってお酒飲むといつもこんな感じなんですか?」

「ええ、カーターさんはいつもこんな感じです」

マスターがにこやかに微笑む。
きちんと整えられている白髭が穏和な雰囲気を醸し出している。

「ところで、マスター?」

「はい、なんでしょう」

「マスターって、この店のマスターなんですか?」

そう聞くと、マスターはにっこりと微笑んで――。

「いいえ、私はただの従業員です」

そう、答えたのだ。




バーに着いてから、かれこれ2時間近く経った頃。
ようやく中尉が酔いから覚めたようだった。

「汐里」

「はい」

「お前……強いんだな……」

中尉が泣きつかれるまで、かれこれ2時間近く。
その間の私といえば、マスターと会話をしつつお酒を嗜むことしかすることがなかった。

「そうですか?」

「『そうですか?』って、もう10杯目だぞ! 本当大丈夫なのかよ?」

「ええ、だってまだ10杯ではないですか」

ちなみに最初に中尉が頼んだあの紅いどろどろとした飲み物の味は、予想通り美味しくはなかった。
仕方がないので、マスターにはカクテルを注文して今こんな感じである。

「ああ、うん。お前が酒に強いことは分かった。で、そろそろ本題へと戻そう」

先に脱線したのは中尉のほうではありませんか?
そう言葉にしたかったが、また面倒ごとになりそうなので飲み込んだ。

「汐里、お前は『親王会(しんのうかい)』という組織を知っているか?」

中尉から聞き覚えのない単語が聞かされる。
首を横に振ると、中尉が正面を見ながら言葉を続けた。

「『親王会』というのは、所謂カルト教団だ。これを見てみろ」

そう言って中尉が取り出したのは、小型の端末だった。

「時代も変わったものだ。こんな小さな機械がパソコンだっていうんだからな」

彼が手に取っているのは、PDAと呼ばれる携帯端末だ。スマートフォンとも呼称されている。
中尉はパソコンだとか言っているが、正確にはパソコンの類ではない……が、インターネットに繋げたり、アプリケーションを起動させたりと技術の進歩を表現している代物だ。
まあそういった機械オンチな私にとっては、スマートフォンだろうが携帯電話だろうがパソコンだろうがどれも似たり寄ったりにしか見えないのだが。
つまり扱えないとただの骨董品でしかないということだ。扱えない人間から言わせてもらうと。
中尉はそんな私の怪訝な視線に構うことなく、淡々と機械を操作している。

「はぁ……」

「ん、どうした少尉」

「いえ、こう技術の進歩を目の前に出されると、なんかやるせなくて」

「ん、ああそうだったな。少尉は機械オンチだったもんな。その歳で」

「年齢のことには触れないで下さい。怒りますよ?」

「はいはい、すまんすまん。おっ、これだ。見てくれ」

画面に映っていたのは、とある動画投稿サイト。
そこに投稿されていた動画が再生されている。
動画に映ったのは、一人の男性。
黄金色に輝くその美しい金髪に茶色い髭、そして黒い装飾服と十字架のネックレスから神父であると判断できた。
年齢は30代後半から40代前半といったところだろうか。

「この男がどうかしたのですか?」

「黙って聞いてろ」

そう吐き捨てるように呟く中尉の顔は、今まで見たこともないような真剣な表情だった。
その顔はどことなく、私の顔に似ていると感じていた。
両親を殺され、兄と慕っていた人を奪われたときの私と同じような顔を……。

『――俗世に生きる迷える子羊たちよ。我々は進化しなければならない! 旧世代におけるこの醜く汚れた身体を脱ぎ捨て、純真無垢に満ちた輝かしい肉体へと……。神は望んでいるんだ。世界の変革を! そして人類の進化を! この急変する時代を乗り切るには、この腐った肉体を破壊しなければならないとッ! それが我らが神、ムルクスの教えなり――』

「何言っているの、この人」

宗教とかそういった類には疎いが、それでも仏教だとかキリスト教だとかは理解できた。
ただこれは理解できない。というか、理解したくない。

「つまりだ、人間から吸血鬼になれば、極楽浄土へ行けるっていってんだよ。全く訳が分からん。ただ、困ったことにこの救いのない世の中だ。それを真に受けて自ら吸血鬼になることを望んでいる人たちは少なくない」

私たちハンターがいくら奴らを始末したところで、数は減らない。
単に奴らの繁殖率のほうが上回っているのも事実だし、そういった輩がいるのも事実なのである。
殺しても殺しても虫けらみたく何度も何度も出てくる。人間という存在だったことを意識させないほどに。

「今下らない教えを説いているのが、親王会のトップであるザクセン神父だ。牙を確認できないからもしかしたら人間なのかもしれない」

「え? 人間?」

「ただ、あえて犬歯をへし折っているのかもしれないから、断定はできないけどな。まぁそんなことはどうでもいい。重要なのは、奴らが吸血鬼に手を貸しているってことだ」

「というと?」

「奴ら、宗教集団だとかほざきながら、裏で薬を流している」

「薬ッ!?」

――――薬(やく)。
それは私にとって、あまり触れられたくないキーワードのひとつでもあった。
私が兄と慕っていた男は、薬を追っていたのだから。
その薬の名は、『Angel Down』。

「『Angel Down』……ですね」

「そうだ。お前の兄貴が追っていたやつだ」

『Angel Down』

麻薬の一種ではあるが、吸血鬼にのみ影響を及ぼし人間には無影響のため法律等では規制されていない麻薬である。
一般的に服用すると、純血の吸血鬼の血が体内に入り込み、より吸血鬼らしくなるといわれている。
ただしそれは一時的なものであり、ある程度時間が経つと効果が切れ麻薬特有の中毒症状に苛まれるらしい。
兄は、単独で作戦行動が可能な程強く、また隠密行動(ステルス)を得意としていたため、
『Angel Down』を取り扱う密売人との取引現場に襲撃をかける作戦に参加させられていたと聞いている。

「現時点で、『Angel Down』を扱っている密売人のほとんどは、『親王会』の援助を貰っている。
 その代わり、『親王会』に一定の額の金を納めるという条件付でな」

「協会も『親王会』には、手を焼いていた。なぜなら、吸血鬼の強化は、そのまま協会、つまるところ民間人への脅威となるからだ」

だから、兄さんを向かわせた。
中尉の話したいことが読めてきた気がする。

「だから、兄さんは消されてしまったのですか?」

私の問いに、中尉は答えない。
暫く酒を啜った後、ため息を吐いてこう答えた。

「……そうだ。ゼロは『親王会』に消された可能性が極めて高い。吸血鬼どもは勿論、密売人どもも奴の活躍のおかげで商売にならなかった。それはそのまま、奴らを餌にする『親王会』にも都合が悪い。だから、五月蝿いハエは叩き潰す、そう考えていてもおかしくはない。いや、むしろそう考えたほうが自然だ」

「そして、英雄を失うのは協会にとっても大きな痛手となる。協会の勢力が弱まれば、その分だけ『親王会』も活動がしやすいというわけだ」

中尉の話を聞きながら、私は心の中にいる獣を抑えていた。
吸血鬼、それと『親王会』。
私の大事なものをすべて奪い去った奴らを、私は許さない。

「汐里、怒りに身を任せたくなる気持ちは分かる。だが、まだだ。今のお前の技量では、到底奴らを潰すことはできない」

悔しいが、中尉の言うとおりだった。
兄さんでも敵わないような相手が、私なんかでは足元にも及ばないだろう。

「……だが、密売人を追っていれば、『親王会』に辿り着く可能性は極めて高い。
 どうせ、俺が止めても奴らを追う気なんだろ? だから、俺も手伝おう」

驚いて中尉の顔を見ると、彼は笑っていた。

「部下一人にそんな無茶させるわけがないだろ。部下を守るのも、上官の務めだ。それに、『親王会』を追っているのは何も俺たちだけじゃない。他にもUNFVTの連中や、俺の知り合いだがマイケルという奴も組織を追っている」

マイケル、という人物には聞き覚えがある。
名は確か、マイケル・ウェーバー。階級は私と同じ少尉。
警察組織に属していたことのあるヘリの操縦士だ。

「とりあえず、マイケルと合流しよう。話はそれからでも遅くはない。
 ……組織は一枚岩ではない。だが他方向から切り崩していけば、案外脆いものだ」

「……はいっ!」

中尉のおかげで、少なくとも目的はできた。
ただ闇雲に奴らを殺すのではなく、『親王会』を叩き潰す。
暗闇の中に一寸の光が差し込んだように、心が大らかな気分になった。

中尉へお礼を言い、バーを後にした。
外に出ると、灰色の空から白い小粒のようなものが降り注いでいる。
それは、触れると溶けてなくなってしまうが、触るとひんやりとして心地よいもの。

「雪……降っているんだ」

季節はもう冬。冬将軍の到来中である。
乾いた風が私の頬をくすぐる。
その度に私は、ぶるぶると身体を震わせながら歩を進めるのであった。

道中、ケーキ屋があった。
そこには大きく、『バレンタインデーキャンペーン』と描かれていた。
世間では、バレンタインデーで賑わっているらしい。
だから道中、幸せそうな男女が身を寄せ合って歩いていたのだろう。

「いいなぁ……」

無意識の内にそう呟いていた。
これは心底そう思っていた。
私にはもう、バレンタインデーにチョコをあげる人はもういない。
もう二度と、現れないのだろう。

私がいつまでもその看板を眺めていたせいか、目の前のケーキ屋の店員さんが外に出てきた。

「いらっしゃいませ。バレンタインデーにチョコはいかがでしょうか」

「え? あ、その、ごめんなさい。もう私には、渡す人なんていないから」

そう呟くと、店員はハッと顔を上げ、すぐさま頭を下げた。
私は「気にしないで」と言うと、そのまま背を後ろに向けようとした。

「あ、あのっ!」

ふと振り返ると、先ほどの店員が話しかけてきた。

「お客様にそこまで想われている人だったら、その人もお客様のことを何処かで想われているかもしれません。
 月並みな言葉しか言えないのですが、諦めないで下さい」

そう言うと、「失礼をしてしまったお詫びです」と言い桃色の袋を手渡す。

「中にはチョコレートを作るための材料といくつかの型が入っています。
 もしよろしければ、その人のためにチョコを作っては如何でしょうか?」

私は軽く頷くと、その袋を手に家に帰った。




「ただいま」

しんと静まった薄暗い部屋。
照明を付け、近くにあった椅子に腰掛ける。

「ふぅ」

相も変わらず人気のない家。
だけど、想い出は沢山残っている。
半年程の短い間だったけど、それでもかけがえのない日々を過ごせた家。
そして、私の大好きな人の温もりがある家。
だから、あの人が帰ってくるまで、私はこの家を守らなければならない。

ふとバッグの中を覗くと、先ほどケーキ屋で貰ったチョコレートの材料が入っていた。
あの時は断りきれず貰ってしまったが、私が持っていても仕方のないような気がする。
でもこのまま捨てるにはあまりにももったいない。

『もしよろしければ、その人のためにチョコを作っては如何でしょうか?』

あの時のケーキ屋の店員さんの言葉が脳裏に浮かぶ。

そうだよね、例え帰ってこないとしても、あの人のためにチョコを作ってもいいよね。
もしかしたら、チョコ目当てでひょっこりと帰ってくるかもしれないし。

そう結論が出た私は、そそくさにキッチンへと入っていった。






「できたっ!」

あれから2時間弱、なんとかチョコレートを作ることができた。
まさか、チョコひとつ作るのにこんなに苦労するとは思わなかったけど。
それでも、あの人に贈るチョコは出来た。
誰かのために料理をする、それがこんなに大変でやりがいのあることだと初めて実感していた。

――後は、彼が帰ってくるのを待つだけ。

兄さん、どうか帰ってきてほしい。
貴方のために頑張ってチョコを作って待っている妹がここにいるから。

ピンポーンと呼び鈴の音が部屋中に響き渡る。
身体をびくっとさせて、すぐさま状況の確認をする。

「……誰?」

その声に答える者はいない。
だが確かに呼び鈴は鳴った。幻聴ではない。
私はスカートの中に仕込んであるホルスターから銃を引き抜くと、右手に持ち替えて恐る恐る玄関に近づいた。
玄関に近づくにつれて、私は胸の高鳴りを聞いていた。
心臓の鼓動がやけにうるさく聞こえる。
こんな時間に訪問者なんて、疑わしい要素しかない。
吸血鬼の襲撃か、それとも協会の関係者か。

――兄さんだったらいいのに。

その言葉を飲み込み、慎重に内鍵を外しゆっくりとドアを開ける。
そこにいたのは、巨大な大男であった。
白髪に凄みのある顔つき、それは獰猛な獣のように感じた。
そして何といっても特徴的なのが、左目を覆っている黒い眼帯である。
白と黒のコントラスト、それは見るものに様々な感情を奮い起こさせる。
私が抱いたのは、畏怖。
決して逆らってはならない、実力が桁違いに違うから。
だが、その黒いマントを見て、私は絶望に近い感情を覚えた。

――あの夜の、大好きな父さんと母さんが無様にも殺害されたあのクリスマスの夜の、あの大男。

その瞬間、私の心の中で何かが砕けた。
無意識の内に右手に隠し持っていた銃を大男に向ける。

「ああああアアァァァァァッッッ――!」

殺意に塗れた指で、引き金を引いた。
だが引けない、引けないということは弾は飛ばない。
何故引けないのか、それは大男が私の銃のシリンダーを掴んでいるからだ。
今私の持つ銃は、コルトアナコンダ。兄の所有していたリボルバー式の拳銃だ。
リボルバー式の銃は、弾が大きいため貫通力、威力ともに他の拳銃を凌駕している。
だが欠点がある。それは装弾数の少なさと、装填の時間、そしてシリンダーを掴まれると撃てないということである。
そしてその弱点を突かれて、混乱しているのが私だ。
周りから見たら、さも滑稽な姿を晒しているのだろう。
それほどまでに、私は我を忘れていた。

「――落ち着け、鬼崎少尉ッ!」

その地の底から聞こえるような怒声で、私はハッと眼を見開いた。
そして自分が今何をしているのか、瞬時に理解する。

「あっ、すっ、すいませんでしたっ!」

すぐに銃に安全装置をかけ、ホルスターに仕舞い込む。
そして目の前の大男に謝罪をする。

「すまん、こんな時間にこんな奴が訪れてきたら、そりゃ警戒されるのも無理はないな。
 こいつは俺の判断不足だ。気にしなくていい」

その大男は、私に軽く頭を下げる。
そして私にこう言った。

「名乗り遅れたが、自己紹介をしておこう。
 俺の名はシン。国連軍吸血鬼対策班第21歩兵部隊隊長を務めている。階級は少佐だ」

国連軍吸血鬼対策班(United Nations Forces Vampire Measures squad)。
通称、『UNFVM』。国連軍の所持する対吸血鬼に特化した部隊だ。
私たち傭兵とは違い、使い捨てではない兵士を集めた部隊。
私たちを自由気ままで暴走寸前の野犬と例えるならば、彼らは犬のように躾けられたハイエナと例えたほうが自然である。
それほどまでに実力に違いがあるのだ。
そんな部隊の隊長格ともなれば、それ相応の実力を持つことを表している。
そんな人に、私は銃を向けてしまったのだ。

「ご、ごめんなさいっ!」

もう一度誠意をこめて謝罪する。
シンと名乗った男は、必死に頭を下げる私をなだめながら、話を進めた。

「ああ、お前の気持ちはよく分かった。あれは事故だから、もう気にするな。
 それより、ちょっと大事な話があるんで、中に入れてくれないだろうか」

なんだか私がピエロを演じているかのように感じて、恥ずかしさがこみ上げてきた。
気恥ずかしさを誤魔化すため、大尉を家の中へ招待する。

少佐は目先にあった椅子に腰掛けると、私に座れと手で合図を出した。
勿論、少佐の指示に従って椅子に腰掛けた。

「さて、鬼崎少尉。いくつか質問に答えてもらおう」

「は、はい」

「まずひとつ。お前の兄であるゼロ、彼の消息を知らないか?」

「いえ、あの日以来、兄さんからの連絡は一向に途絶えたままです」

「では次。『親王会』について知っているか?」

親王会。その言葉に私は怒りを露にした。

「はい。私の兄を殺した組織です」

「そうか、そういう答えを持ったか。そこに行き着いたのなら、話は早い」

そう言うと、少佐は懐から1枚の書類を取り出した。

「この書類にサインをしてくれ」

差し出された書類には、『入隊志願書』と書かれていた。

「入隊志願書?」

「ああ、鬼崎少尉のいた第81番偵察部隊から此方へと移ってもらう志願書だ」

「此方とは?」

「国連軍吸血鬼対策班第21歩兵部隊だ、鬼崎少尉」

つまり、私は『UNFVM』に入隊することになるのだ。
あまりにも突発過ぎて、驚きを隠せない。

「『親王会』を追うにあたって、お前には奴らとやり合える程度には実力を持ってくれないと困るからな。
 今いる部隊よりも、此方のほうがいいだろうという上の判断だ」

「そうなんですか。えっ、でもそれって――」

どうして、私が『親王会』のことを知って憎んでいることを知っているのだろう。

「とにかく、だ。今日からお前は俺の部隊に所属してもらう。
 それと同時に、お前の肩についているそいつを外してもらおう」

私の肩に付いてある黄金色に輝く長方形のバッチ。
それは、少尉であることを示すバッチ。

「そして、お前にはこれからこれを付けてもらう」

それは、白銀色に輝く長方形のバッジ。
つまり、それの示すことは――。

「今日からお前は中尉に昇格したんだ。これから頼むぞ、鬼崎中尉」

目の前にいる少佐のその言葉が、私には天使の囁きのように聞こえたのだった。
全ては、兄を取り返すために。


      To be continued...
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